東京高等裁判所 昭和57年(ラ)760号 決定
抵当権は、目的物の有する担保価値を把握する権利であるから、目的物の既存の用益関係は抵当権の設定によって影響を受けないのみならず、抵当権設定者は、抵当権設定後においても、抵当物件に新たな用益関係を設定することを妨げられない。これを敷衍すれは、抵当権設定前に抵当物件について用益権を取得した者が、抵当権設定後に同物件について当該用益権の目的の範囲内において新たな用益方法を講ずることも、あるいは所有者が、抵当権設定後自ら新たな用益方法を講じたり又は他人に用益させたりすることも妨げられず、抵当権の実行により競売手続が開始され、抵当物件の差押えがあっても、所有者の天然果実収取権が消滅する(民法三七一条)ほかに、所有者又は用益権者の用益権限に消長を来すことはない(民事執行法一八八条・四六条二項)。ただ抵当権設定後に、抵当物件に新たな用益方法を講じた所有者は、法定地上権制度の利益を受けることができず、また対抗要件を具備した抵当権の設定後に用益権を取得した者は、競売開始決定前に短期賃借権を取得した者の例外(民法三九五条)を除いて、競落人に対抗することができないだけである。
右の理によれば、前記認定のように、(2)・(4)・(5)・(6)・(10)地に対する借地権を有する抗告会社が、本件競売手続開始後、右各土地上に本件建物を移設して右土地に新たな態様の用益を始めたからといって、それ自体なんら違法、不当ということはできず、また所有者である白井隆太郎が右各土地を抗告会社に使用させたことも批難されるいわれはないうえ、一括競売に付されることになっている前掲目録1記載各土地及ひ建物が競落すると、右各土地の所有権も、本件建物を除く抗告会社所有建物の所有権及びその敷地賃借権もすべて競落人に移転する結果、抗告会社が有する(2)地の対抗力ある借地権は消滅することになり、かつ抗告会社は、相手方が抵当権設定を受けた後に取得した本件建物敷地の賃借権をもって競落人に対抗することができないから、競落人に対し本件建物を収去して(2)・(4)・(5)・(6)・(10)地中本件建物敷地部分を明け渡さなければならないことになる。そうだとすると、抗告会社が本件建物を移設したことによって、本件競売不動産の価格が著しく滅少するとはいえないというべきである。
(中島 真栄田 塩谷)